大規模修繕工事の考え方

1 大規模修繕工事とは

大規模修繕工事の定義というものは特にありません。

「大がかりな工事」や「多額の費用を必要とする工事」という意味もありますが、一般的には、マンション等建物の経年劣化を考慮して実施する計画修繕の事を「大規模修繕工事」といいます

国土交通省の「長期修繕計画ガイドライン」では、概ね12年周期で計画されています。

通常、大規模修繕工事の際には、外壁の塗装・修繕、防水層の改修、鉄部塗装等全体的な工事を実施するケースが多いのですが、必ずしも建物すべてを修繕するわけではありません。

ただし、外壁やバルコニー内の改修工事は、足場を架けて行わなければ実施できませんが、この「足場」は工事費のかなりの比率を占めるにもかかわらず、発注者(管理組合)にとっては実際の「改修」の効果(耐用年数の延長や美観の向上等)とは無縁のものですので、この「足場」を架けたときに実施できるものはすべて行う方が効率良いと考えられます。

その意味から、大規模修繕工事とは、「足場を架けて行う工事」と定義されることもあります。

 

2 大規模修繕工事の特徴

  マンションの大規模修繕工事は、一般的な建築工事(新築工事)と比較して大きな違いがあります。

 それは、以下に集約されると考えられます。

①人が日常的に居住(生活)している部分(建物)が「工事場所」であること

→新築工事に見られる、鋼板製の「仮囲い」内部での「治外法権」的な工事感覚が通用しない

→生活動線と工事動線が重なり、居住者(生活者)対応、安全・防犯対策が最大の問題点

 ②発注者が「管理組合」という特殊性を持っていること

 →コンセンサスを得るプロセス、周知広報、組合&個別の対応など臨機応変な処置が必要

  十分な同様工事の経験を経なければ得られない特殊センスが必要である)

したがって、施工会社を選定するにあたっては、これらの点を十分に考慮して候補会社を検討する必要があります。 

そのためには、まず、大規模修繕を進めていくうえで、修繕工事の方式をどうするかについて検討する必要があります。

 

3 修繕工事の方式について 

大規模修繕工事では、一般的には以下の方式が採用されています。

修繕工事の方法 メリット デメリット

 責任施工方式

(施工会社が設計・施工を一体で行う)

・ 信頼のおける施工業者がいれば、初期の段階から建物に配慮した検討を行うことができる。

・ 設計監理料の支払いが不要

 ・ 施工内容、工事金額が不明瞭となりがち

・ 下請け業者に丸投げされる危険性

・ 正しい判断で必要な工事が行われない危険性

・ 専門的な第三者のチェックがないために起こりえる、適正な検証が行われない危険性

設計監理方式
(工事を行わない設計事務所等が診断・改修設計等を行い、それに基づいて施工業者を選定し、工事を監理する)

・ 必要とされる工事を実施することが可能

・ 競争原理に基づく施工業者の選定、管理組合の立場にたった工事監理の実施

・ 工事内容・工事費用の透明性の企図が可能

・ 設計監理会社の選び方に苦労する
・ 設計監理会社の技量が判定しづらい(特に最近は、安く請負って期待に応えられずトラブルになるケースもあるので注意が必要)

・ 工事費のほかに設計監理料を支払う必要あり

CM方式
(コンストラクション・マネジメント方式の略。設計事務所等が診断・改修設計等を行い、それに基づいて施工業者が工事を実施。別にコンストラクション・マネージャーが施工会社のチェックを行う)

・コンストラクション・マネージャー(CM)が設計者と施工業者の業務をそれぞれ第三者としてチェック可能
・工事費の構成等の透明化

・CMに支払う費用の発生
・責任区分が不明確になる
・大規模修繕工事の成否がCMの能力に左右される

工事監修方式

(施工会社が設計施工を行うが、専門家が設計内容、工事監理を第三者として監修する)

・設計監理料の節減

・設計数量や仕様に関する資料がすでにある場合に採用される

・責任区分が不明確になる

・適用は50戸程度以下の小規模マンション

 大規模修繕工事は、最低でも4か月、大型マンションに至っては、1年以上の長期間にわたる工事であり、金額も数千万円から数億円に至る一大事業です。

 理事や専門委員の負担が甚大となることから、外部の専門家を導入した方式を採用して進めて行くことが望ましいと考えられます。